むかしむかし、ロシアのある村に、バニアという男がすんでいました。バニアはナベやカマを売ったり、こわれたものをなおす仕事をしていました。ある晩、仕事で帰るのがとてもおそくなってしまいました。「もう、そとはまっ暗だ。今夜はあそこにとまるとしよう」と、いって、バニアは古ぼけた教会のまえにウマをとめました。

ボーン、ボーン。教会の鐘(かね)が、十二時をうちました。その時です。墓場の地面がグラグラとゆれ出しました。バニアはビックリしてとびおきると、あわてて近くの木のかげにかくれました。すると、ゆれていた地面がバックリとひらき、中から白い服をきた、おそろしい顔の魔物が出てきたではありませんか。
頭には棺(かん)おけのふたをのせ、目は青くひかり、口にはするどいキバがあります。この魔物は、人間の血を吸って殺してしまう、吸血鬼(きゅうけつき)にちがいありません。月の明るい晩に墓場からあらわれて、人間の血をもとめてさまよい歩くのです。
バニアは木のかげで、ブルブルとふるえていました。吸血鬼は棺おけのふたを教会のかベにたてかけると、人間の血をもとめて村のほうへいってしまいました。「このままでは、村の人たちが殺されてしまう」バニアは、村の人たちをすくう方法を考えました。「そうだ! たったひとつ方法があるぞ!」
バニアは、小さいころおばあさんから聞いたはなしを思い出しました。《吸血鬼は太陽の光に弱く、明け方までに棺おけに入って、ふたをしっかりしめないと死んでしまう》さっそくバニアは、教会のかべにたてかけてあった棺おけのふたをかかえると、木のかげにかくれて吸血鬼が帰ってくるのをまちました。
夜明け近くになると、吸血鬼が満足そうな顔で帰ってきました。ところが、教会のかべを見てビックリ。「ややっ、ふたがない! あれがなくては、おれは死んでしまう!」吸血鬼は、ひっしになって棺おけのふたをさがします。「どこだ、どこだ、どこだ、どこなんだー!」
そのあわてたようすがおかしくて、バニアはクスッとわらってしまいました。それに気づいた吸血鬼は、こわい顔でバニアの方にふり向きました。「さてはおまえだな、棺おけのふたをぬすんだのは! すぐかえさないと、おまえの血をぜんぶすってしまうぞ!」
でも、バニアも負けてはいません。「ふん、やれるものならやってみろ。この棺おけのふたをバラバラにしてやるぞ!」と、いって、バニアは棺おけのふたに鉄のナベをふりかざしました。「ああ、やめてくれ、やめてくれ!」吸血鬼はなさけない声をあげました。「じゃあ、今日はだれを殺してきたのかいえ! それから、その人間を生きかえらせる方法もいえ!」
吸血鬼は、かぼそい声でこたえました。「村のグレゴリというじいさんだ。生き返らせるには、おれの服の左がわをきりとって、死人の部屋でもやせばいい。そのけむりが死人を生き返らせるのだ」そこでバニアは、棺おけのふたを返してやりました。
吸血鬼はふたを頭にのせて、急いで墓にとびこみました。ちょうどそのとき、ニワトリがコケコッコーとなきました。夜が明けたのです。「ギャアーー! ひと足おそかったか!」朝日をあびた吸血鬼は、頭に棺おけのふたをのせたまま、干物(ひもの)のようにひからびてしまいました。
バニアは吸血鬼の服の左がわをきりとると、村へ急ぎました。そしてグレゴリじいさんの家を見つけると、吸血鬼のいったとおりの方法で、グレゴリじいさんを生き返らせてやりました。それから村人たちを案内して、ひからびた吸血鬼を見せました。
バニアは、とねりこ(→モクセイ科の落葉小高木)の木の枝をとがらすと、おどろいている村人のまえで、グサリと吸血鬼のむねにつきさしました。「さあ、これでこいつは、二度と生き返ることはできません」吸血鬼をやっつけたバニアに、村人たちは何度も何度もお礼をいいました。