むかしむかし、あるところに、ロザリーというかわいい娘さんがいました。ロザリーには三人のにいさんがいましたが、それぞれお嫁さんをもらい、べつの家でくらしていました。だからロザリーは、森のちかくのちっぽけな家で、一人ぼっちですんでいました。
さて、その森の中にはこまったことに、ウービルという、みあげるほど大きな女のかいぶつがすんでいました。いつもおなかをすかせていて、人間だろうと動物だろうと、手あたりしだいにのみこんでしまうのです。ロザリーは、ひさしぶりににいさんたちにあいたくなりました。
そこで朝はやくから、おみやげにもっていくケーキをやきました。やきあがったケーキをテーブルの上のカゴにつめると、馬車(ばしゃ)をひくウマをだしに馬小屋にいきました。そこへ、おなかをすかせたウービルがやってきたのです。「おや? クンクン。いいにおいがする」
ウービルはながい鼻をヒクヒクさせながら、そこらをかぎまわりました。いいにおいは、ロザリーの家の台所からながれてくるので、ウービルは台所のまどにかけよると中をのぞきました。そこには、ケーキのつまったカゴがテーブルにのっています。「これは、いいものがある」
ウービルはまどをおしあげると、カゴをつかんでそのまま口の中へほうりこみました。おいしいケーキにありついたウービルは、ほんのすこしだけまんぞくして、森のほうへ帰って行きます。さて、ロザリーが台所にもどってみると、まどがあいていて、ケーキがカゴごとなくなっているではありませんか。(これはきっと、ウービルのしわざだわ)
ロザリーはしかたなく、もういちどケーキをやいて、べつのカゴにつめました。それから馬車にのって、まず、いちばん上のにいさんの家へいきました。ところがいくらもすすまないうちに、うしろで大声がしました。「ロザリー、おまち! あたいの口からよだれがこぼれて、とまらないんだよ!」
ウービルはあっという間に、馬車のうしろにやってきました。ロザリーはカゴからケーキを一つ取り出すと、思いっきりうしろへとなげました。ウービルは立ちどまって、それをひろいます。(いまのうちだわ!) ロザリーはまえよりもはやく、馬車をはしらせました。
でもウービルは、ケーキを口にほうりこむなり、ふたたび馬車をおいかけました。ウービルと馬車のあいだは、みるみるちかづいていきます。「ロザリーおまち! あたいのおなかはまだまだペコペコだよ」ロザリーはまた一つ、ケーキをなげました。
ウービルはたちどまって、ケーキを口にほうりこみ、すぐ馬車のうしろまでおいついてきました。一つ、また一つ、うしろへケーキをなげているうちに、とうとうカゴはからっぽになりました。ロザリーはおもいきって、からのカゴをなげました。ウービルはカゴをひろって、それものみこみました。「ロザリーおまち! こんどはおまえを食べてあげるから」
ロザリーは馬車からとびおりるなり、車りんをひとつはずしてうしろへころがしました。ウービルは立ちどまって、それをひろいあげました。そのすきにロザリーは馬車にのり、ウマにムチをいれました。車りんの三つしかない馬車は、ガタゴトゆれながらも、どうにかはしりました。
ウービルは車りんをのみこんでしまうと、ふたたび馬車をおいかけました。「ロザリーおまち! おなかがすいて、あたいの胃ぶくろはゴロゴロなってるんだよ」ロザリーは、つぎつぎと車りんをはずしました。ウマは車りんのない馬車をひきずってはしりました。
それでもウービルは、車りんをのみこんでしまうと、すぐにおいついてきました。ロザリーは馬車からとびおりると、ウマをはずしてその背中にのりました。さすがのウービルも、馬車をのみこむには、じかんがかかります。大きな口へ馬車をおしこんでいるすきに、ロザリーをのせたウマはドンドンさきへすすみました。
でも、ウービルはあきらめません。ついに馬車を飲み込んだウービルは、再びロザリーを追いかけました。「ロザリーおまち! おまえをたべるまでは、あきらめやしないよ」ウービルの手が、ウマのしっぽをつかみました。ロザリーはウマからころがりおちると、むちゅうではしりました。
ウービルはウマをつまみ上げると、ゴクリと飲みこみました。ところがウマは、ウービルのおなかの中で大あばれします。ウービルは気持ちがわるくなり、ウマをはきだしてしまいました。ウマはクルリとむきをかえ、家のほうへかけていきました。ウービルは、またもやロザリーをおいかけました。
ロザリーはつかまりそうになると、頭にかぶっていたスカーフをなげ、ふくをなげ、クツやクツしたをなげました。ウービルはそのたびに足をとめて、口の中へほうりこみました。そのうちにあたりがくらくなり、夜になりました。「ロザリーおまち! おや、どこへいったの? ・・・まったく、こうくらくては、わかりゃしない」
ロザリーはくらやみにまぎれて、あっちこっちとにげまわり、やっとのことでいちばん上のにいさんの家にたどりつきました。ロザリーは、おもての戸をたたいていいました。「にいさん、戸をあけて! わたしよ、いもうとのロザリーよ。かいぶつがそこまできているの!」
ベッドでねていたにいさんは、戸の音にビックリしてとびおき、ロウソクに火をつけました。ロザリーはすっかりつかれていて、声がガラガラです。だからにいさんには、どうしてもいもうとだとはおもえませんでした。カギあなからそとをのぞくと、はだしの足がみえました。「ロザリーだなんてとんでもない! わしのいもうとはとてもぎょうぎのいい娘だ。夜なかにはだしでくるわけがない」
にいさんは、ベッドへもどってしまいました。「ああ、だめだわ」 ロザリーはおおあわてで、二ばん目のにいさんの家へいき、ドンドンと戸をたたいていいました。「にいさん戸をあけて! わたしよ。いもうとのロザリーよ。かいぶつにおわれて、ふくもクツもとられてしまったの」
ねむったばかりのところをおこされたにいさんは、ひどくふきげんで、ベッドをおりもしないでさけびました。「こんな夜なかにおこすやつはだれだ! なにがロザリーなもんか。わしのいもうとはそんなガラガラ声じゃない。さっさときえうせろ!」そのとき、ウービルの足音がせまってきました。「ああ、ここもだめだわ」